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広島高等裁判所 平成10年(行コ)17号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  差戻前及び後の控訴審並びに上告審の訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴の趣旨

1  原判決中の控訴人らの請求を棄却した部分を取り消す。

2  被控訴人は、福山市に対し、金一一億三二七四万〇四三四円及びこれに対する昭和五八年一二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  主文第一項と同旨

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二事案の概要

本件は、福山市の住民である控訴人らが、同市が土地区画整理法(以下「法」という。)九六条二項、一〇四条一一項に基づいて備後圏都市計画事業東部土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の保留地として取得した土地につき、本件事業の施行規程所定の要件がないのに随意契約の方法で売却した違法及び時価より低廉な価額で売却した違法があるなどと主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、同市に代位して、右売却当時同市の市長の職にあった被控訴人に対し、時価と売却価額との差額相当の損害賠償を求める住民訴訟事件である。

原審は、平成三年八月六日、本件の保留地の売却につき控訴人らが主張する違法はないとして同人らの請求を棄却する判決をした。右判決に対し、控訴人らが控訴し、差戻前の控訴審(広島高等裁判所平成三年(行コ)第一三号。以下「差戻前控訴審」という。)は、平成六年八月五日、本件の保留地の売却を住民訴訟の対象とすることは制度の予定しないところであるなどの理由で、本件訴えは不適法であると判断して、これを却下する判決をした。右判決に対し、控訴人らが上告し、上告審(平成六年(行ツ)第二三九号)は、平成一〇年一一月一二日、本件の保留地の処分は、地方自治法二四二条一項所定の「財産の処分」及び「契約の締結」に当たるものとして住民訴訟の対象となると解することができるから、これと異なる見解に立って本件訴えを不適法とした差戻前控訴審の判決は地方自治法二四二条の二第一項の解釈適用を誤るものとして、破棄を免れないとの理由で、右判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す判決(以下「本件上告審判決」という。)をした。

一  前提となる事実等

1  控訴人らは、福山市の住民であり、被控訴人は、本件の保留地の売却処分をした当時の福山市長であった。

2  福山市は、昭和五六年九月五日、本件事業の事業施行者の保留地として原判決別紙物件目録一記載の土地(以下「本件保留地」という。)を取得した。

3  福山市は、昭和五七年八月二七日、株式会社天満屋(以下「天満屋」という。)に対し、本件保留地のうち、同目録二記載の土地(以下「本件二の土地」という。)及び同目録三記載の土地(以下「本件三の土地」という。なお、本件二及び三土地を併せて、以下「本件土地」という。)を随意契約によって売買代金二二億七三三九万九五六六円で売却し(以下「本件売却処分」という。)、昭和五八年九月六日所有権移転登記手続を了した。

4  本件事業施行規程七条一項は「法第九六条第二項の規定により定めた保留地の処分は、施行者があらかじめ予定価格を定め、一般競争入札によるものとする。」旨を、同条二項は「前項の規定にかかわらず、次の各号の一に掲げる理由に該当するときは、随意契約によることができる。一号 入札希望者がないとき。二号 落札者が契約を結ばないとき。三号 国又は地方公共団体が公用又は公共の用に供するため必要とするとき。四号 その他特に施行者が必要と認めたとき。」旨を規定する(乙二)。

5  福山市は、昭和五七年七月六日、株式会社福山不動産鑑定事務所に対し、対象土地を本件土地、価格時点を昭和五七年六月三〇日、価格の種類を正常価格、依頼の目的を土地売買の参考とするためとして、本件三の土地については鑑定評価を、本件二の土地については意見評価を依頼し、不動産鑑定士aは、昭和五七年七月八日付けで、本件三の土地を一四億一八一八万五八六〇円(一平方メートル当たり三万九〇〇〇円)と鑑定評価する旨の鑑定評価書(以下「a鑑定」という。)を作成し、同日付けで、本件二の土地を七億九五八二万六九八〇円(一平方メートル当たり三万九〇〇〇円)と評価する旨の意見書(以下「a意見」という。)を作成し、それぞれ福山市に提出した(甲八、一二)。

6  控訴人らは、昭和五八年八月二六日、本件売却処分につき福山市監査委員に対し、監査請求をしたところ、同委員から、昭和五八年一〇月二四日付けで、本件売却処分に違法又は不当はないとの監査結果通知を受けた。

7  原審は、本件土地につき、価格時点を昭和五七年八月二七日、価格の種類を正常価格として、鑑定を実施し、鑑定人bは、本件土地の価格を二四億五〇〇〇万円と鑑定した(以下「b鑑定」という。)。

8  控訴人らは、差戻前控訴審において、鑑定事項を「一 昭和五七年八月二七日時点における本件土地の現状において、大規模地としての用途(例えば、郊外型の大型小売店舗、物流団地等)のために必要な一平方メートル当たりの造成工事費はいくらか。二 同じく昭和五七年八月二七日時点における本件土地の現状において、一般住宅用地としての用途のために必要な一平方メートル当たりの造成工事費用はいくらか。」とする鑑定を申請した。差戻前控訴審は、平成五年三月一六日の第九回口頭弁論において、右鑑定申請を採用し、鑑定人候補者を選任したが、鑑定に必要な資料が入手できなかったため、控訴人らは、平成六年一月二八日の第一二回口頭弁論において、右鑑定申請を撤回した。

9  本件上告審は、「住民訴訟は、地方自治法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を対象とするものでなければならない(同法二四-二条の二第一項本文)ところ、普通地方公共団体の所有に属する不動産は、公有財産として同法における「財産」に当たるものと規定されている(同法二三七条一項、二三八条一項)から、普通地方公共団体の所有に属する不動産の処分は、当該不動産が当該普通地方公共団体に住民の負担に係る公租公課等によって形成されたものであると否とを問わず、同法二四二条一項所定の「財産の処分」として住民訴訟の対象となるものと解される。また、右の不動産について売買契約を締結する行為は、同項所定の「契約の締結」に当たり、住民訴訟の対象になるものと解される。本件の保留地は、昭和五六年九月五日に福山市の所有に属することとなり、同市がこれを同五七年八月二七日に随意契約によって売却したというのであるから、右売却当時同市の「財産」であったものであり、右売却行為は、「財産の処分」及び「契約の締結」に当たり、住民訴訟の対象となるものというべきである。」旨を判示して、本件訴えを適法とした。

二  争点

1  本件売却処分が随意契約の方法により行われたことが違法となるか。

(控訴人らの主張)

本件事業施行規程七条一項によれば、保留地の処分は原則として一般競争入札によるべきものとされており、同条二項は例外的に随意契約によることが許される場合を定めているが、本件の場合は右例外規定のいずれにも該当しないから、随意契約の方法により行われた本件売却処分は、右規程に違反するものとして違法である。

仮に、本件保留地が、副都心商業地域の核たる位置づけを与えられており、売却の相手方は右目的に沿うものに限定する必要があったことを理由に、一般入札の方法を排し、本件保留地処分の目的、内容、契約の相手方の資力、信用、種類等を考慮して特定の相手方を選択して処分するのが妥当であったとしても、本件土地の売却当時にそのような相手方としては天満屋を含めた複数の核テナント候補会社があり、それらから選択する余地とその現実的可能性があったのであるから、入札の相手方を右のような相手方に限定した限定入札の方法を採るべきであったにもかかわらず、そのような方法を採らずに行われた本件売却処分は違法である。

(被控訴人の主張)

本件保留地は、法九六条一項の規程により「土地区画整理事業の施行の費用に充てるため」に定められたものであり、その処分方法は、法一〇八条一項の規程により「施行規程で定める方法に従って処分」しなければならない。この場合、国又は地方公共団体の財産の処分に関する法令の規程、例えば、国有財産法、地方自治法、福山市契約規則、議会の議決に付すべき財産の取得又は処分に関する条例等は適用されない。これは、保留地の売却に際しては、機会均等、公正、価格の有利性等の要請を一歩退かせても、施行者が適宜適切に必要な事業費の取得を可能ならしめようとの趣旨に出たものである。また、本件保留地は、施行地区内の核として健全な市街地の育成と地域の発展振興に寄与すべきものと位置づけられたものであり、処分の相手方はこの目的に沿うものに限定される必要があった。このことから、被控訴人は、本件保留地につき一般競争入札の方法によって保留地の目的とかけ離れた目的を持った者が落札する可能性を排し、同土地を随意契約の方法で売却したのであるから、右売却に何ら違法はない。

なお、控訴人らは、限定競争入札の方法を採るべきであったと主張するが、施行規程には限定入札の方法は規定されていない。

2  随意契約の相手方として天満屋を選択したことが違法となるか。

(控訴人らの主張)

仮に、本件土地を大型小売店舗として使用させることを目的として随意契約の方法により売却することが、地元の要望に沿い本件事業の目的に合致するものであったとしても、随意契約の相手方を天満屋としたことは違法である。

なぜならば、当時、西武百貨店及びそごう百貨店は福山地区に進出する希望を有していたし、アンテナショップを設置しているものとしては三越百貨店及び高島屋百貨店があったこと、天満屋は右売却の時点で地元の商店街との間で本件保留地での営業はしないとの約束をしていたこと、天満屋は駅前の再開発ビルが完成すればそこに核テナントとして入居することが確定していたことから、本件土地に店舗を構えることはあり得なかったこと、天満屋は現在に至るも本件土地上の建物を倉庫として使用しているのみであること、これに対し、天満屋以外の百貨店は、右のような支障はなく、本件保留地に店舗を開設することが可能であったこと等の事情を考えると、天満屋に売却することによっては、本件保留地を大型小売店舗として使用させる目的が達成できないことは当時から明らかであったからである。

(被控訴人の主張)

西武百貨店が進出について関心を寄せていたのは本件保留地ではなく市庁舎移転後の跡地である。また、控訴人らは、福山市の都市規模においては天満屋が二か所で事業を行うことはあり得ないし、現在まで本件保留地に百貨店等が出店していないと主張するが、結果としてそうなったとしても、本件売却処分の当時においてその可能性がなかったわけではなく、現に、天満屋は駅前のほかに、市内に出店している。被控訴人は、本件保留地処分の目的、内容、契約の相手方の資力、信用、業種等を考慮し、地元地権者の意向も踏まえて天満屋を相手方として選定して本件売却を行ったものであるから、天満屋を相手方として選択したことに違法はない。

3  本件売却処分の売却価格(以下「本件売却価格」という。)の決定に違法があるか。

(控訴人らの主張)

本件売却価格は、a鑑定(本件三の土地について)及びa意見(本件二の土地について)に基づき決定されたものであるが、右a鑑定及び同意見(以下総称する場合は「a鑑定等」という。)には本件土地を著しく廉価に評価したものであり、これを見過ごしてなされた本件売却価格の決定は違法である。

a鑑定等の評価の誤りは次の点である。

(一) 鑑定手法の誤り

(1) 本件土地は、大型小売店舗建設のための利用を目的とする保留地であり、住宅地の利用を目的としていなかったにもかかわらず、a鑑定等では本件土地の最有効使用を住宅地としている。

(2) 本件土地のような大規模地には評価手法のうちの収益還元法の適用は難しく精度が低いものとなるのにもかかわらず、a鑑定等ではこの方法を用いて算出した価格を鑑定評価の基準値として利用し評価額を引下げている。

(3) a鑑定等には、構成費として全く根拠のない二五パーセントが計上されている。

(4) a鑑定等では、本件土地には不必要で根拠のないことが明らかな熟成度補正を行っている。

(5) a鑑定では、評価手法のうちの原価法により算出する積算価格は本件土地のような既成市街住宅地内の宅地であれば使うことができないにもかかわらず、a鑑定等では原価法により算出した価格を鑑定評価の基準値として利用し評価額を引下げている。

(二) a意見の杜撰さ

a意見の対象土地(本件二の土地)は街路条件が三方路の土地であるのに対し、a鑑定の対象土地(本件三の土地)は、街路条件が二方路の土地である。このように街路条件が異なる土地であるにもかかわらず、a意見は、右条件の差異を無視してa鑑定と同一の価格評価を行っている。

(三) b鑑定との比較

(1) b鑑定の誤り

① b鑑定においては、評価手法の一つとして「類似地域内の大規模地の取引事例に直接比準して対象地の価格を求める方法」が採用されており(以下「大規模地比準法」という。)、右評価方法に基づき算出された評価額には問題点は認められない。したがって、本件土地の適正価格は、b鑑定により採用された取引事例価格を基準値とした二六億一〇〇〇万円と評価すべきである。

② しかし、b鑑定がもう一方の評価手法として採用した「標準的な規模を有する一般住宅地等として再開発する場合を想定し、控除方式を採用して対象地の価格を求める方法」(以下「控除法」という。)には次の点で誤りがある。

Ⅰ 本件売却処分は、本件土地を副都心商業地域の核として利用することを目的とし、売却する相手方を右目的に沿うものに限定し、特定の相手方を選定して行ったものであるから、本件土地の評価については控除法による適正価格を求める手法は採用すべきではなく、仮にこれを採用したとしても、右手法により求めた評価額と大規模比準法により求めた評価額とを同等に扱って本件土地の評価額を求めることは誤りである。

Ⅱ 控除法では採用されている造成費、販売費及び一般管理費の数値が通常以上に高く見積もられており、また、用地取得から販売完了までの期間を三年六か月、工事期間を一年という開発予定期間を採用しているがこれらはいずれも長すぎるものであり、これらを適正な数値に直せば控除法により算出される本件土地の評価額は少なくても二五億二六〇〇万円を上回るものとなる。

(2) 仮に、b鑑定の評価額である二四億五〇〇〇万円が本件土地の適正価格であるとしても、本件売却価格は二二億七三三九万九五六六円であり、その差額は一億七六六〇万〇四三四円にも達する。この差額は決して鑑定評価に際して是認できる誤差ではなく、時価との間で右差額を有する本件売却価額の決定は違法と評価すべきである。

(被控訴人の主張)

保留地の処分価格は、施行者が裁量権の範囲内において諸般の事情を勘案して適正と判断した価格を決定して行うべきものであり、客観的評価額より低額であることから直ちに右価格決定が違法となるわけではない。

本件土地の価格決定は、不動産鑑定士が行ったa鑑定等を吟味した上で決定されたものであり、右価格決定に違法はない。

控訴人らが、a鑑定等の誤りと主張する点に対する反論は次のとおりである。

(一) 鑑定手法の誤りについて

(1) 最有効使用を住宅地としたことが誤っているとの主張について

控訴人らの主張は、本件土地の処分相手方の選定と本件土地の正常価格を求めることを混同したものである。控訴人らの主張では、本件土地の正常価格ではなく限定価格を求めなければならなくなる。

a鑑定等は、正常価格を求める鑑定手法の一環として最有効使用を住宅地と判断したものであり、このことの誤りはない。

(2) その他について

土地の鑑定評価は、原則として取引事例法、収益還元法及び原価法の三方式を併用して適正な評価額を算出するものであり、特に本件土地のような広大地については同規模の取引事例は皆無であり三方式を併用して評価を行うのが最も適切な評価方法である。また、根拠のない構成費が計上されているというが、本件土地の場合は既に埋め立て等が完了しており、道路、公園等の工事費のみを要するのでこれを一平方メートル当たり約三〇〇〇円としたものであり正当である。なお、熟成度補正は工事期間及び販売に要する期間をみてこの間の金利負担等の補正を行ったものであり相当である。

(二) a意見が杜撰であるとすることについて

土地の価格形成の要因は、単に街路条件のみではない。a意見は、その対象となった本件二の土地とa鑑定の対象となった本件三の土地との画地条件、街路条件、交通接近条件及び環境条件等の価格形成要因を比較検討して評価されており適正である。

(三) b鑑定との比較について

(1) b鑑定が誤りであるとすることについて

b鑑定は、本件土地の用途を郊外型の大型小売店舗、学校及び庁舎等の利用が期待されるほか、再開発すれば一般住宅、店舗及び事務所としても利用が可能であるとし、最有効使用を規模、立地条件等総合的にみて、郊外型小売店舗等の用地と判断し、その上で、大規模地比準法と控除法との二つの手法により求めた価格を比較検討し、調整を行った後に鑑定評価額を決定している。右鑑定における最有効使用の判断及び鑑定手法に合理性を欠く点は見あたらない。

(2) b鑑定について

b鑑定における大規模地比準法の取引事例のうち、本件土地と最も条件が近似しているのは、Xの事例であるから、大規模比準法による価格評価においては、右土地の比準価格である一平方メートル当たり四万〇九〇〇円を重視すべきである。また、控除法による価格評価における造成後の更地価格の査定において増加率を一一パーセントと査定しているが、これを除けば、b鑑定における控除法による評価額とa鑑定等における評価額はほぼ同一となる。

4  被控訴人に故意又は過失があるか。

(控訴人らの主張)

被控訴人は、右のとおり本件売却処分が違法であることを知りながら、あるいは知るべきであったにもかかわらずこれに気づくことなく本件売却処分をし、福山市に対し損害を与えた。

(被控訴人の認否)

控訴人らの主張は否認する。

5  損害

(控訴人らの主張)

福山市は、被控訴人の右違法行為により、一一億三二七四万〇四三四円の損害を被った。

(被控訴人の認否)

控訴人らの主張は否認する。

第三証拠

原審及び差戻前の控訴審各記録中の書証目録及び証人等目録並びに差戻後の控訴審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  争点1について

当裁判料所も、本件保留地のうちの本件土地を随意契約の方法によって売却したことに違法はないと判断する。その理由は、次に付加、訂正又は削除するほかは原判決一一丁表八行目から一五丁裏八行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一二丁裏六行目から七行目にかけて及び一三丁裏末行の各「被告c」を各「原審相被告c」に、一二丁裏七行目の「同d」を「被控訴人」に、同行目の「同e」を「原審相被告e」に、それぞれ改める。

2  原判決一四丁表初行から二行目にかけての「別紙物件目録記載三の土地(以下「本件三の土地」という。)」を「本件三の土地」に改める。

3  原判決一四丁表二行目の「頭におき」を「内部で意思統一して、鑑定評価額に基づいて同土地を売却することを」に改める。

4  原判決一四丁表四行目の「地元の商店街の代表との話し合いが難しく、」を削除する。

5  原判決一四丁表七行目の「被告c」から同丁裏二行目までを次のとおり改める。

「昭和五七年七月一三日に開かれた小委員会おいて、福山市は、市庁舎の用地が本件保留地以外の土地に決定された経過と右売却案を提示したところ、本件保留地全体についての利用計画を策定して提出すべきであるとの提言があったため、同月一五日に小委員会を同月一六日に協議会を開くこととなった。同月一五日の小委員会において、福山市は、本件保留地のうち、メモリアルパークの駐車場として利用されている土地を除く土地のうちの約一万坪(本件三の土地に相当する部分)を売却する旨を提案したが、これに対し、委員側から、本件保留地を利用しての具体的な発展策の提示、残地処分の困難さと右発展策との兼ね合いの観点から本件三の土地と本件一の土地を併せた本件土地を一括処分すること及び処分価格の適正化を求める要望が出された。そこで協議の上、福山市は、天満屋に対し本件土地を不動産鑑定評価額で売却する交渉をすることを約した。なお、天満屋に売却することそれ自体についての異論及び価格評価の手続についての要望はなかった。同月一六日の協議会において、福山市は、前記市庁舎の用地に関する経過報告を行った後、小委員会の要請に応えて本件保留地のうちメモリアルパークの駐車場以外の部分である本件土地を一括して天満屋に処分することを提案し、委員会側からは、本件土地については、百貨店一店舗及びスーパーマーケット二店舗を誘致する計画を中核とする全体の利用計画を樹立すること及び前記三土地上の元町再開発組合の仮店舗についての使用期限を守ること、これが不可能な場合には協議会に対しその報告と処分方法を協議することの要望がなされた。」

6  原判決一四丁裏五行目の「福山市は、」から一〇行目までを次のとおり改める。

「昭和五七年八月一〇日に開かれた小委員会において、福山市は、同委員に対し前日の福山市小売業近代化委員会において承認された本件土地を天満屋に対し売却する案(右案が承認された経緯は後記二1(一)のとおりである。)についての協力を依頼するとともに、七月一六日の協議会において要望された事項につき「本件土地を地域の核として商業地域に指定するなかで要望の趣旨を踏まえて努力する。昭和五七年七月一九日の期限を既に経過していること等諸々の問題を考えた場合、今の機会に本件土地を一括して処分したい。なお、利用計画については、現段階で提示することは難しいので今後も続いて協議と報告を行う。」旨を回答したが、委員側からは、「副都心の核としての具体的方策が明らかにされていないので小委員会での結論は出せない。早急に協議会を開きそこで説明すべきである。」旨の意見が出された。右意見により翌一一日協議会が開催され、福山市からは委員会での説明で本件土地の天満屋への売却を了解してもらいたい旨の依頼がなされたが、委員側からは、「本件保留地は地域の繁栄にかけて残したものであり、本件土地を天満屋に売却する場合でも、天満屋を副都心の核として残し、利用計画について地元協議会と協議してゆくという約束ができなければ処分について同意できない。」等の意見が出され、再度協議することとなった。

このような経過をうけて開催された昭和五七年八月二四日の協議会において、福山市は、本件保留地を東部副都心としての商業地域の核として位置づけ昭和四九年に策定された基本構想を具体化することを前提として本件土地を天満屋に一括処分することを提案した。これに対し協議会の統一見解として、福山市は本件土地を副都心商業地域の核とする構想で努力すること、その具体的事項についてはできるだけ事前に協議会等で協議することという条件の下に、本件売却処分に同意した。なお、右協議会が同意するに至る経過の中で、協議会委員から、本件土地の売却方法(随意契約の方法によるものであること)並びに天満屋への売却価格の決定手続及びその価格について異論が出たことはなかった。」

7  原判決一五丁表九行目の「本件売却処分当時、」の後に「前記協議会及び小委員会からの強い要望を受けて」を加える。

8  原判決一五丁裏五行目の「できないから、」を「できず、前記小委員会及び協議会においても、右方法を採ること自体に異論はなかったのであるから、」に改める。

9  原判決一五丁裏八行目の「違法はないというべきである。」を「違法があったということはできない。」に改め、行を改め次のとおり加える。

「なお、控訴人らは、本件土地の売却当時に副都心商業地域の核となる複数の核テナント候補会社があり、それらから選択する余地とその現実的可能性があったことを理由として、限定入札の方法を採るべきであったとも主張する。

しかし、前記施行規程に限定入札の方法は規定されていないのみならず、本件土地を売却する時点で、副都心商業地域の核となる複数の核テナント候補会社が存在したと認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの右主張は理由がない。」

二  争点2について

1  原本の存在及びその成立に争いのない甲第一一、第二五号証、本件土地を撮影した写真であることに争いのない乙第四号証、証人fの証言、原審相被告c、同e及び被控訴人各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 昭和五七年六月一五日、同年七月二一日、同月三〇日、同年八月九日に各開催された福山市小売業商業近代化委員会では次のような協議がなされた。

(1) 福山市は、福山市商店連合会に対し、次の理由により、本件土地を天満屋に売却する案を提示した。

① 本件事業は昭和五六年度においてすでに赤字であり、本年度本件保留地の処分を行わないと事業推進に重大な支障が生じる。

② 元町再開発組合から出ている保留地再使用願いは認めない方針である。

③ 本件土地は一括して早急に天満屋に売却したい。この場合、周辺地域の振興発展に寄与するような土地利用を図ること等の条件をつける方針である。

④ 当初は、本件保留地の分割処分を考えたが、地元地権者からの強い要請に沿い一括処分としたものである。

⑤ 本件保留地は現在準工業地域として都市計画決定をしているが、商業地域に地域指定を変更する予定である。

(2) 右提示に対する福山市商店連合会の意向は次のとおりであった。

① 「天満屋は前記仮店舗を元町再開発ビル完成時に閉店し、その後も、本件土地では大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律で定義する店舗としての利用は行わない。」旨を委員長より確認してもらいたい。

② 福山市及び商工会議所は、今後とも引き続き商店街振興につき最大限の支援を行うよう言明してもらいたい。

③ 以上が充たされるなら問題解決を委員長に一任する。

(3) 右福山市商店連合会の意向を受けて、委員長は「本件保留地については、本件土地を一括して天満屋に売却することはやむを得ないものとして合意が成立した。これからも委員長として福山市商店連合会のために最大限の努力をしたい。福山市は売却したから責任はないとの態度をとることなく、買手である天満屋に対し大所高所から十分事業が成立するようによく考えてもらいたい。」旨の見解を表明した。

(二) 本件売却処分に当たり締結された売買契約において、天満屋は、「本件土地を地域の発展振興に寄与する施設等の用途に供することを目的として本件土地を買い受け、右目的のとおり発展振興に寄与する施設等の用途に供する。」旨を確約した。また、天満屋は、右売買契約において約定された売買代金を滞りなく支払った。

(三) 天満屋は、昭和五八年四月に元町再開発事業により新たに建築された駅前ビルに移転し、その後、前記軽量鉄骨造二階建建物を倉庫として使用する以外には本件土地を利用していないが、右移転した以後に福山市内に右ビル内の店舗とは別の店舗を設けて営業している。

2  右認定事実に基つき控訴人らの主張を検討する。

天満屋が現在に至るまで、本件土地上に右売買契約において確約した施設を建築していないことは控訴人らの主張のとおりであることが認められる。

しかし、天満屋が地元の商店街との間で本件保留地での営業はしないと約束していたと認めるに足りる証拠はないこと、1(一)で認定した福山市小売業商業近代化委員会における協議結果によれば、福山市商店連合会が「本件土地では大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律で定義する店舗としての利用は行わない。」旨の確認を天満屋にするように委員長に求めたのは、地元商店街を含む福山市商店連合会が、大型店舗が本件土地に出店することにより地元商店街が被る営業上の損失を恐れ、前記一で認定した協議会及び小委員会(これらが地元地権者の意向を代表する組織である。)の本件土地の利用方法に関する要望とは利害が対立していたことが認められることからすると、天満屋以外の百貨店及び大型スーパーマーケットであっても本件売却処分の時点で出店が容易であったとはいえないこと、天満屋以外の百貨店及び大型スーパーマーケットが本件売却処分当時、本件土地に出店する意向があったと認めるに足りる証拠はないこと(西武百貨店が出店する意向を示していたのは、福山市庁舎が移転した跡地に対してであって本件保留地に対してではない。)、さらに、天満屋は本件土地に出店していないものの、右売買契約において、前記のとおり確約し、市内の別の場所に出店していることからすると、本件売却当時、本件土地に出店する可能性がなかったとはいえないし、福山市において出店する可能性がないことを認識していたと認めるに足りる証拠もないこと、天満屋には本件売却の対価を支払うに十分な資力があったことが認められ、加えて、被控訴人が本件売却の相手方として天満屋を選択したことにつき個人的利益を図った等の不正があったことを窺わせる事情があったと認めるに足りる証拠はないのであるから、これらを併せ考えれば、本件売却処分の相手方として天満屋を選択したことに違法があったとはいえず、控訴人らのこの点に関する主張は理由がない。

三  争点3について

控訴人らは、本件売却価格の決定の基となったa鑑定等が本件土地を著しく廉価に評価したものであり、これを見過ごしてなされた本件売却価格の決定は違法であると主張する。

なるほど、市の施行する土地区画整理事業に要する費用は施行者である市が負担することとされており(法一一八条一項)、保留地の処分代金額が低下することは、他に財源を求めない限り、市が一般財源から負担すべき額の増大をもたらし、特段の事情のない限り市に損害を生じさせるものというべきであるから、被控訴人には、本件事業の施行者の代表者として、所与の条件のもとで、本件保留地をできるだけ高額な価格で売却するよう努力すべき義務がある。しかし、不動産の客観的な価格がいくらであるかを把握することは容易でないし、契約は価格についての相手方との合意ができてはじめて成立するものであることからすると、処分代金額は、相手方の意向、交渉態度によっても左右されることは当然のことである。そして、既に判示したとおり、処分方法として随意契約により、相手方を天満屋として選択して本件売却処分をしたことが違法とはいえない本件においては、本件売却代金を決定する過程において、著しく公正を疑わせる事情が認められない限り、被控訴人の本件売却代金の決定につきその裁量の範囲を逸脱した違法があったとはいえないものと解するのが相当である。右観点から本件を見るに、当裁判所も、被控訴人がした本件売却価額の決定に違法があったとはいえないと判断する。以下その理由を述べる。

1  本件売却価格が決定された経緯及びb鑑定について

右についての認定は、次に付加、訂正又は削除するほかは、原判決一六丁裏四行目から一九丁裏二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決一六丁裏八行目の「不動産鑑定士a」を「株式会社福山不動産鑑定事務所」に、一〇行目の「aを「a」に、「これを」を「昭和五七年七月八日付けで本件三の土地を」に、それぞれ改める。

(二) 原判決一七丁表四行目の「判断し」の後に「(なお、右時点でaは福山市から本件三の土地を天満屋に売却する意向であることを知らされていなかった。)」を加える。

(三) 原判決一七丁裏七行目の「昭和五七年七月上旬」から八行目の「同土地と」までを「昭和五七年七月八日付けで、本件二の土地と」に改める。

(四) 原判決一八丁裏二行目の「3」を削除する。

2  右認定事実に基づき控訴人らの主張を判断する。

(一) 鑑定手法が誤っているとの主張について

(1) 控訴人らは、a鑑定等が本件土地の最有効使用を住宅地としたことに誤りがあると主張する。

しかし、aは、本件保留地の価格の種類として正常価格を評価するよう求められたものであり、そして本件保留地の適正な価格としては右正常価格を求めるべきところ、右依頼を受けた不動産鑑定士は対象土地の適正価格を算出するために同土地の一般的な最有効使用を判断する必要があるが、本件保留地の最有効使用をa鑑定等のように住宅地と判断するかb鑑定のように大規模地を必要とする郊外型の小売店舗等の用地店舗の敷地と判断するかは不動産の価格鑑定の専門家たる不動産鑑定士の専門的裁量に属する事項と解すべきであるから、a鑑定等が最有効使用を住宅地としたことにつき右裁量を逸脱した事情が認められない限り、このことをもってa鑑定等が誤った評価をしたものということはできない。そして、証人bの証言によれば、そもそも最有効使用の判断は不動産鑑定士の判断事項である上、本件土地の場合最有効使用の判断は非常に困難であり、これを住宅地と判断することも可能であったことが認められること、同証言及び鑑定の結果によると、b鑑定が最有効使用を前記のように判断したのは、鑑定評価を行った日付が昭和六二年一二月二二日であり、本件売却時から五年以上も経過した本件保留地及び付近の土地の状況を把握したからであると推認できること、これらに証人aの証言を併せると、a鑑定等の最有効使用の判断が誤っているといえないのみならず、右裁量を逸脱したものであるとは認められないから、控訴人らの右主張は採用できない。

(2) 控訴人らは、その他にもa鑑定等の鑑定手法の誤りがあるとして、控訴人らの主張(2)ないし(5)のとおり主張する。

しかし、右主張は、いずれも、不動産鑑定士の専門的裁量に属する事項に関し、aが採用した手法あるいは数値を非難するものであり、控訴人らの右主張の根拠となった証人bの証言は、(2)については、「収益還元法により算出することが不可能とはいえないが、仮に行ったとしても大規模地における店舗の収益の把握は精度の低いものにならざるを得ず期間もかかることから適当ではない。」、(3)については、「構成費が二五パーセントという数値の根拠は分からない。しかし、それぞれの鑑定士のノウハウを持っているのでそれによったとも考えられる。」、(4)については、「区画整理が済んでしまった地域では熟成度という考え方は馴染まないと思う。」、(5)については、「原価法により算出しても意味がない。」というものであるが、右(2)については最有効使用を住宅地とすれば賃料等により収益の把握が可能であって精度が低いとはいえないこと、右(4)については、完全に宅地化されて取引されている土地と本件保留地との間に宅地化の熟成度に差があると判断しても不当ではないこと(証人aの証言)、右(5)については、比準すべき取引事例が乏しい場合、原価法により算出してこれを参考にすることも意味があること、以上のように言えるのであり、これらに照らせば、aが採用した手法あるいは数値が誤っているといえないのみならず、専門家としての裁量の範囲を逸脱したものと認めることはできないから、控訴人らの右主張は採用できない。

(二) a意見が杜撰であるとの主張について

原本の存在及びその成立に争いのない甲第八号証、証人aの証言によれば、aは、本件二の土地が本件三の土地と比べて街路条件において優位であることを認めながら幹線道路、東福山駅への交通接近性において劣ること等を勘案して、本件二の土地の価格評価を行ったものであることが認められるから、控訴人らの右主張は採用できない。

(三) b鑑定が誤っているとの主張について

(1) 控訴人らは、本件土地の価格評価は大規模地比準法により求めた価格のみにより決定すべきであるにもかかわらず、b鑑定が控除法により求めた価格を参考として本件土地を評価したことあるいは控除法により求めた価格を大規模地比準法により求めた価格と同等に評価して本件土地を評価したことをもってb鑑定に誤りがあると主張する。

しかし、前記一で認定した事実(原判決引用部分を含む。)、証人bの証言及び鑑定の結果によれば、b鑑定は、最有効使用を大規模地を必要とする郊外型の小売店舗等の用地店舗と判断したうえで、大規模地比準法の基礎となる取引事例が少なく本件土地と対比して十分に比較の対象となる取引事例を見出すことができなかったことから控除法により求めた価格を参考にして価格評価を行ったことが認められ、右評価の方法は相当であるうえ、右評価の過程に専門家としての裁量を逸脱した点があるとは認められないから、控訴人らの右主張は採用できない。

(2) また、控訴人らは、b鑑定における控除法による評価に当たり採用された数値に誤りがあると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(四) b鑑定における評価額(二四億五〇〇〇万円)が適正な価格であったとしても、本件売却価格(二二億七三三九万九五六六円)との差額(一億七七六〇万〇四三四円)は評価において是認できる誤差を超えているから本件売却価格の決定が違法となるとの主張について

前に説示したとおり、本件売却価格の決定が違法となるのは、本件売却代金を決定する過程において著しく公正を疑わせる事情が認められ、右決定につきその裁量の範囲を逸脱した場合に限られると解するのが相当であるところ、被控訴人は不動産鑑定士であるaがした鑑定等に基づきその評価の妥当性につき検討を加えたうえで本件売却価額を決定していること、b鑑定とa鑑定等との評価額の差は、前記のとおり最有効使用の判断に差があることに基づくものであり(右の差が専門家としての裁量の範囲内であることは先に説示したとおりである。)、前記認定のとおりb鑑定における控除法を用いた本件土地の評価額は一平方メートル当たり四万〇三〇〇円であり、bが価格評価時点後地域が発展することに伴う増加率を一一パーセントとみているが、これはb鑑定が本件売却処分の四年以上後になされたことから可能であったと考えられ、この点を除くと控除法により算出された評価額とa鑑定等の評価額との差は僅少であるというべきであるから、被控訴人がした本件売却価額の決定に違法があったとはいえない。

以上のとおりであるから、控訴人らの主張はいずれも理由がなく、被控訴人がした本件売却価格の決定に違法があるとはいえない。

第五結論

以上によれば、控訴人らの請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 野々上友之 裁判官 檜皮高弘)

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